【元漫才師の交友録】第58回 スペース① ネット上に謎の「荒らし」/角田 龍平
2009年春。巨大掲示板2ちゃんねるにできたラジオ番組『角田龍平のオールナイトニッポンR』の掲示板は、スペース(空白)を多用する歪な書き込みによって埋め尽くされていた。
〈2時間の深夜ラジオの時間内に こんなに たくさんの話題をリスナーに提供できるのか。弁護士 角田 龍平 先生の話術はスゴイ!〉
〈「平成の吉田 松陰」イコール「角田 龍平(すみだ りゅうへい)」だ〉
〈「踊る!さんま御殿」でも角田龍平(すみだ りゅうへい)を見た。「平成の ほのぼの さん」イコール「角田 龍平」とした方がふさわしい〉
連続投稿で私を褒めそやす謎の人物は、いつしか他の投稿者から「スペース」という蔑称で呼ばれるようになっていた。
〈スペースに荒らされ、このスレ終了したなwww〉
〈スペース、手前去れよwww手前みたいのが、角田のファンなのが、迷惑なんだよwww〉
スペースを嘲笑う者がいる一方、匿名掲示板らしからぬ正論で諭す者も現れた。
〈あなたが連続して1人で書き込みし続けると、他のリスナーの書き込みが見えづらくなり、リスナー同士の交流ができなくなってしまいます。あなたは自分が掲示板を独占し、他の人の交流を阻害しているのです。コレは角田龍平ファンを減らす行為ですよ。ご自分のしている事をどう思われますか?〉
心あるリスナーの忠告にも、スペースはどこ吹く風だ。
〈反省しています。そのかわり 責任を持って ドンドン 書き込みをしていただくことを約束していただけますか?積極的に ドンドン 書き込みしなさいよ。誰も 書き込み制限してませんよ!!負けないように 書き込み競争しましょう!!!〉
〈積極的に ドンドン 書き込みしなさいよ〉と『おもいッきり生電話』で主婦を叱責するみのもんたの口調で居直ると、何だかよく分からない「書き込み競争」を迫るのだった。『ミザリー』のキャシー・ベイツや『ザ・ファン』のロバート・デ・ニーロを彷彿とさせる狂信的なファンの不気味な書き込みに言い知れぬ不安を覚えた私は、掲示板を正視することができなくなった。
数カ月後。掲示板から遠ざかり、心の平穏を取り戻しつつあったある日のこと。自宅でノートパソコンを開いて裁判所に提出する書面を起案していると、メールの受信を知らせる音が鳴った。クリックすると、アドレスを登録したものの、一度もメールのやり取りをしたことのなかった父の名前が表示された。63歳になる父は、40年勤めた会社を定年退職したばかりで、時間を持て余し、家庭菜園を始めたと母から聞いていた。メールの内容は無口な父らしく、新人弁護士ながらメディアに出演するようになった私を心配する短い文章だった。
〈龍平君 初心の 初々しさを いつまでも 忘れないで 弁護士の 基本業務は 確実に こなして 下さい。テレビは 一瞬 一瞬を 負けずに 初々しい自然の龍平で しゃべったら十分です〉
筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平