【元漫才師の交友録】第59回 スペース② 父は書き込み主なのか?/角田 龍平
平成27年に放送されたNHK大河ドラマ『花燃ゆ』で吉田松陰役を演じたのは伊勢谷友介さんだった。もっとも、「平成の吉田松陰」と呼ばれたのは、伊勢谷さんだけではない。
〈角田 龍平は 日本の若者の 自己実現 を望んで ラジオに 出演している。「平成の吉田 松陰」イコール「角田 龍平(すみだ りゅうへい)」だ〉
平成21年春、巨大掲示板2ちゃんねるにできたラジオ番組『角田龍平のオールナイトニッポンR』の掲示板では、他の投稿者から「スペース」と呼ばれる謎の人物が跳梁跋扈していた。空白を多用する癖の強い文体で私を褒め殺しするのがスペースの特徴だ。
昭和の終わりに、竹下登元首相が右翼団体から街宣活動で褒め殺しにあい、裏から手を回して止めさせたことがあったが、匿名掲示板での褒め殺しに対しては為す術がない。いたずらに時が過ぎ、犯人の特定が暗礁に乗り上げた頃、捜査線上にひとりの男が浮上した。
〈龍平君 初心の 初々しさを いつまでも 忘れないで 弁護士の基本業務は 確実にこなして 下さい〉
初めて父から送られてきたメールを目にした瞬間、マウスを握りしめる私の右手は小刻みに震え出した。
「スペースは父なのか?」。
確かに、空白を多用するスペースの書き込みの特徴と、父のメールの特徴は一致している。しかし、それだけでスペースは父であると結論付けるのは早計だ。そもそも、40年勤め上げた会社を定年退職した63歳のおじいちゃんが、匿名掲示板で32歳の息子を褒めそやす書き込みを繰り返すなんて正気の沙汰でない。
刑事裁判で争点になる犯人と被告人の同一性を犯人性といい、検察官は犯人の特徴と被告人の特徴の類似点を積み重ねて犯人性を証明する。私は、スペースと父との同一性を検討するため、今まで見過ごしていたスペースの書き込みを丹念に洗い直した。
PHP研究所から出版されている雑誌『PHP』に私のインタビューが掲載された時、スペースは殊更に喜んでいた。
〈弁護士 角田 龍平(すみだ りゅうへい)先生の「人生の処し方」に あの 世界的に著名な松下 幸之助 氏のPHP研究所も感動されて 角田(すみだ)先生にインタビューを申し込まれたのです〉
どうやらスペースは、PHP研究所が松下幸之助さんによって創設された出版社であることを熟知しているようだ。
私も当該事実を子供の頃から知っていた。というのも、実家に『PHP』が毎号送られてきたからだ。松下グループに勤める従業員の自宅には、同誌が毎号届くのである。父が40年勤続した会社は松下電工だった。
書き込みを精査していくうちに、スペースの特徴と父の特徴の類似点が次々と明るみに出る一方、初めて知る父の特徴もあった。父を堅物とばかり思い込んでいたが、そうでもないらしい。
〈スペース書き込み1回て少なすぎ。ちゃんとやれ〉
〈は~い ちゃんと やりま~す〉
筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平