【元漫才師の交友録】第61回 スペース④ 六十にして“居直る”/角田 龍平
〈おもしろい 弁護士 おりまへんか???〉
〈角田 龍平(すみだ りゅうへい)はん おりまっさかい〉
〈せいぜい 宣伝して あげて くださったら どうですか!!!〉
〈心のクリーニングは角田 龍平はんに任せていますさかい〉
2009年春。ラジオ番組『角田龍平のオールナイトニッポンR』の2ちゃんねるの掲示板に、反復継続して自作自演の珍問答を書き込む謎の人物が現れた。ぎこちない文章で私を褒めそやすその人物は、空白を多用する独特の文体から掲示板で「スペース」と呼ばれていた。
スペースの書き込みを目にするたび、なぜだか妙な胸騒ぎを覚えずにいられなかった。スペースの正体を明らかにすべく捜査本部を立ち上げた私は、密かに内偵を進めて情況証拠を収集してから容疑者を取り調べることにした。
「2ちゃんねるの僕のラジオの掲示板で、わけの分からんこと書き込んでるのはお父さんやろ?」。
「何のこと~? お父さん、お前のラジオなんて聞いたことありませ~ん」。
語尾を伸ばす不快な物言いで否認する63歳の父に、切り札である父が寄越してきたメールを突き付けた。
〈龍平君 初心の 初々しさを いつまでも 忘れないで 弁護士の 基本業務は確実に こなしてください〉
メールの文面を、スペースが空いている箇所は一拍置いて読み上げた瞬間だった。
「お前、ラジオで下ネタをいい過ぎなんじゃ!」。
孔子は間違っている。「六十にして耳順う」どころか「六十にして居直る」のが人間だ。父は2ちゃんねるに書き込みを始めた驚くべき動機について語り始めた。
「『サンジャポ』の掲示板で、〈角田は必要ない〉と書いてあったもんやから、お前が干されると思ったんや」。
「えー! 『サンジャポ』の掲示板にも書き込んでたの?」。
余罪の発覚に色めき立つひとりだけの捜査本部。当時、私は『サンデージャポン』(TBSテレビ)に隔週で出演していた。私は余罪の現場、『サンジャポ』の掲示板に急行した。
〈角田弁護士は、どうも奇をてらう発言をしようとしているけど空回りしている。八代弁護士は的確だし、わかりやすいコメントをいつもしている。角田は必要ないんじゃないかと思う〉
共演していた八代英輝弁護士と比較して私の未熟さを指摘する書き込みに、見覚えのある文体で反論している者がいた。
〈弁護士 角田 龍平はまだ31歳。八代は46歳のオッサン。角田は元漫才師 八代は元判事補。角田は笑いのわかる人間 八代はお堅い人間。角田と八代の人生経過の違い を みて論ぜよ〉
一文で素性を見破られる63歳のオッサンが哀しかった。
〈何だこいつ…親族か?〉
1親等の親族は、ここでも居直る。
〈親族 の証明しろよ。「角田 龍平のオールナイトニッポンR」のファン の一人だよ~!〉
スペースを空けた書き込みが、親族の証明だった。
筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平